❸【半夏生の風習】
日本の夏至の頃は、まだ田んぼに水に満たされていないので、
田植えが出来なかったのです。
しかし、梅雨の雨で次第に田んぼに水が満たされてきます。
この夏至から数えて11日目から始まる5日間(7月2日~7日頃)
が【半夏生(はんげしょう)】と呼ばれていますが、
農家にとって,半夏生はとても大切な節目なんだそうです。
熊本県阿蘇地方では
「夏至はずらせ半夏は待つな」(田植えは夏至より少し後に、
半夏を過ぎないように)との言い習わしがあり、
この期間までに田植えを終えないと、また、「半夏半作」といって
「半夏を過ぎて田植えをしたら、収穫は半分になる」
と思われていました。
「半夏生(7月2日頃)迄に田植えを終わらせるのがいい」と言われ,そうしないと,稲の根が充分に張らないままで,
梅雨明けの大雨で流されてしまいますので、
農家にとっては、夏至ではなく、半夏生が大切な節目なのです。
また,この時期に降る雨は「半夏雨」といい,
大雨になることが多いとされています。
毎年、各地で大雨の水害がニュースで取り上げられるのも
この時期には多いのです。
また、「半夏半農」といって、半夏生を過ぎたら田植えはせず、
この期間は農作業を休んだり、物忌みをしたり、
田植えが終わったお祝いに小麦餅等を
神様に供えたり、食べたりする様々な風習や行事があります。
冬至にはカボチャを食べる風習が全国にありますが、
半夏生は地方によって様々です。
①関東地方…新小麦で焼き餅を作り、食べるのではなく、
豊作を祈願して、神に供えたり、手伝ってくれた人に配る風習
があります。(春の収穫祭のような風習)
関東では、春~秋は米を育て、秋~春は小麦を育てる「二毛作」が盛んで、この時期は小麦がたくさんあったことから、
小麦をつかったお餅を食べることが一般的だったようです。
島根県や熊本県でも似たような行事が行われています。
②尾張地方の一部…無花果(イチヂク)田楽を食べる風習があります。
…無花果はこの時期の旬物ですし、不老長寿の意味もあります。
味噌田楽(発祥地:岡崎)は,コンニャクに味噌をつけて焼いた料理として有名ですが,コンニャクの代わりに無花果に味噌をつけて,
ケシの実と木の芽をのせて、焼いて作るそうです。
③三重県では【ミョウガ】を食べると言われています。
④福井県大野市を中心とした地域…焼き鯖…鯖の収穫量が多い。
江戸時代に大野の殿様が飲まず食わずで働いていた農民達に
栄養のあるサバを食べる事を勧めたのが始まりで、
「半夏生(はげっしょ)鯖」と呼ばれ、現在でもその習慣が続いています。
暑い中、重労働であった田植えを乗り切る為に、
栄養のあるサバを食べて体力を蓄えるという風習があり、
現在でも半夏生にサバを食べる習慣が残っています。
脂ののった鯖を丸ごと棒に刺して豪快に焼き、
生姜醤油で食べるのが一般的な食べ方のようです。
今も魚屋さんがこの時期になると、1匹丸ごとサバを焼いて,
半夏生サバとして販売してる所もあるようです。
⑤京都…【三角形の和菓子:水無月(みなづき)】
平安時代のこの時期に【氷室の節句】が行なわれ、
「氷を口にすると、流行病にもかからない」と言われていて、
それが、氷の形に似せた和菓子に変わって行きました。
板の白い部分は「ういろう」で、上には甘く煮た「小豆(あずき)」を
のせて、「三角形」に切った和菓子です。
(小豆は悪霊祓い、
三角形は暑さを耐えるための氷を意味しています。)
他の地域のように、「田植えの感謝&豊作祈願」という意味では
なく、「1年の真ん中にあたる夏至に小豆を食べる」ことで、
「半年間の邪気払い」と「これからの無病息災」を願って
食べられています。
⑥大阪の一部、明石…【夏至~半夏生(夏至~11日目)迄の間】に【タコ】を食す習慣があります。
「稲の根がタコの八本足(縁起がいい末広がりの数字)のように
『八方』に深く広く根が張り、そして吸盤のようにピッタリと
地について離れないように」と豊作を祈願するものです。
今は以前の由来が無くなって、冬至のカボチャと同じく、
「この時期にタコを食べると健康でいられる」
と言う意味で伝わりつつあるようです。
実際この時期、泉州でとれる真蛸は旬で、最も美味しくなります。
タコには疲労回復効果が期待出来るタウリン
(コレステロール低下/血糖値低下/肝臓の強化/疲労回復)や
ビタミンE(発がんを抑制/老化防止/更年期障害の予防・改善),
亜鉛(動脈硬化の予防・改善),コラーゲン(美肌効果)
が豊富に含まれています。
⑦奈良県・大阪府河内・北和歌山…夏至から数えて11日の
半夏生に「半夏生(はげっしょ)餅」をきな粉をつけて食べます。
田植え後に豊作を祈ってお供えすることを「早苗饗(さなぶり)」
ということから、「さなぶり餅」という風に呼ぶこともあるようです。
奈良の農村では、小麦ともち米を同量ずつあわせてついた
半夏生餅を作り、豊作を祈ったそうです。
これは、室町時代からの風習だそうです。
奈良と似たような風習で「半夏生だんご」を振る舞われていた
地域が大阪の河内長野にもあります。(「河内名物半夏生だんご」)
京都にもこういった風習の地域があります。
半夏生は田植えも終わる時期で、田植え休みになります。
その休みを利用して小麦餅を作り、労のねぎらい
田植えを手伝ってもらった家や親戚へお礼に配り、
田植えの無事に感謝、秋の豊作等を祈っていたようです。
小麦が入っていることで、もち米だけのお餅よりもさっぱり
食べられ、蒸し暑いこの時期にはちょうどいいようです。
お餅を食べる習慣がある所では、
餅の様に粘り強くというのが、由来となっています。
⑧島根県、熊本県…
小麦で団子やまんじゅうを作って、神棚にお供えします。
⑨香川県…うどん…田植えの終わる頃に、手伝ってくれた人への
感謝として、5月に収穫した麦を使って,うどんを打ったのが
始まりとされています。
香川県生麺事業協同組合では,この7月2日を「うどんの日」として,
天満宮への献麺式や、
うどんを無料で振る舞ったりなどされているようです。
⑩長野県…芋汁(やまといも)を食べます。
➍夏至の食事
夏至には、全国各地で【冬瓜(とうがん)】が
食べられるんだそうです。
冬という字ですが、こちらは立派な夏の旬野菜で、
冬瓜は熱を抑えてくれ、利尿作用もあるので、
ムシムシとした湿気の多いこの時期にはピッタリの食べ物ですし,
熱中症予防にも良いです。
冬瓜を使った、この時期にお奨めの料理は、
⑴冬瓜を塩ゆでして作るさっぱりサラダ
⑵ひんやり冬瓜汁 などがあります。
・・・・・・・・・・・・
上記のように、各地でそれぞれの風習や地方の特色にあった
食べ物が振る舞われていたことがわかりますが、
これらのほとんどは、その地方の名産品や
生産量が高いものが多いようです。
また、夏至だから特別に食べた訳でなく、昔の人の知恵として、
重労働の田植えが終わった後の疲労回復や夏バテを防止する
為の策で、暑さに負けない体力をつける為だったのと、
五穀豊穣や健康を願うような意味合いが強く、
簡単に手に入る地域の旬の食べ物で滋養をつけた
のが特徴かもしれません。
上記のような風習を知れば、
夏至や半夏生の日を迎えるにあたって、
ただ漠然と過ごすのではなく、
いろいろな思いを馳せる事も出来ると思います。
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